2018/05/13

“ひろし” が逝った日 5/13

5月13日、朝が来た。

ひろしが一夜を明かしたキャリーバッグの中は、おしっこでびちゃびちゃだった。
前日の皮下点滴で吸収した水分が全てでた、ということだろう、かなりの量だ。

バッグから身体を引き出すとき、ふと妙な感覚を覚えた。
違和感、その正体が何だったのか、あとになってわかったけど…


身体を拭いて、ちゃおちゅーる病猫用を、少しづつ口先に運び前歯の隙間に塗り付けるようにすると、舌先で舐めた。

すーすー、と詰まった鼻のすきまから漏れ出るように呼吸音がする。
ゆっくり時間をかけてひろしは食べた(舐めた)。




よし、点滴打ちに行こ!

動物病院は日曜休診のところも多いが、ひろしのかかりつけ病院は午前中の受診ができる。
待合は予想どおり、患者(猫・犬)でいっぱいだった。

30分ほど待つと順番が来た。
診察台に上ったひろしを触った先生の表情が明らかに曇った。

検温…

ひろしは無抵抗だった。

注射…

微動だにしない
膨れ上がる不安・不安・不安・・・

「36度台ですね、高いならまだしも低いのはよくない」


ああこれだ、朝の違和感
ひろし、いつもの熱が感じられない、これだったんだ。

貧血のこと、その原因のこと、思ったより病状悪化が進んでいること
先生は、ずっと喋りつづけていたけど、私の頭は回っていなかった。

そんな言葉が欲しいんじゃない
説明なんてどーでもいい


私は何を待っていたんだろう

「大丈夫!」
「じきに良くなりますよ」


そんな耳障りのいい言葉を期待するのは無理だとわかっていた。
先生は、私に動揺をさせまいとしてか、沈黙を嫌ってか、喋りつづけた。


「死」とか「最期」とか、ハッキリ云ってくれたらいいのに、覚悟も決まるのに…

でももう、どこかでわかっていた、その証拠に涙がどんどん溢れてくる。
「ああ、ひろし、もうダメなの?」

ホントに…何云われてたのか思い出せないくらい意識はどこかに飛んでいた。

点滴を受けて、注射を3本ほど打って
様子を見てください、と云われたような…

そう、最初からそう云われてた気がする、だから
私は軽く受け止めて、こんなに重篤になるとは知らず、のうのうとしてたの?

ショックだった。
自分が、罪を犯したような気持になっていた。


ひろしは私を見ているけれど、身体にチカラが宿っているようには見えなかった。
自力で頭を持ち上げるのもしんどそうだった。

診察室をでて、受付女史に「ちゃおちゅーる」が欲しいというとくれた。
云わなければくれなかった⁈ 
(もう、その必要も時間もないということか)


支払いを済ませて車に乗り込んだ。
このまま、帰ってはいけない気がした。

もやもやが渦巻いてた、納得していない、今こそセカンドオピニオンが必要だ。 


遠いからやめとこうと、選択肢から外していた内灘の病院が急浮上してきた。
日曜に受診できる病院、頭の中のリストに入っているのはここだけだった。

日曜!雨!内灘! 11時半の受付終了時間までに着けるか
考えてる時間はない

時間は10時45分をまわっていた。




間に合った。内灘の病院は大きかった。駐車場も広い
云われていたように待合の人数も半端なく混んでいた。

初診の問診票を書き、セカンドオピニオンが欲しい為に来たことを伝えた。
状況説明と持っていた血液検査結果の紙を渡すと窓の傍の端っこの席に座った。

周りは、犬を抱いている人が多かった。
私も抱きたかったけど、ひろしのストレスになる気がして自分を抑えた。


思ったより早く名前が呼ばれ、診察室に入ると、美しい女医先生が待っていてくれた。
診察台に上げられたひろしは、さっき以上にぐったりしていた。


軽く診察を受けると、ひろしは「酸素室」なるところに一時収容された。
女医先生と2人きり、ちょっと思いつめた感じの先生の言葉が口をついて出た瞬間、私の眼は溶けだした。


見立ては「リンパ腫」或いは「白血病」
概ね、主治医先生の云っていたことと同じ


コトここに至っては、打つ手はないということ
「別れの時」がすぐそこまで来ていることをハッキリと伝えてくれた。

ペットを見送るのは初めてで、何一つ覚悟ができていないのだと云うと

女医先生は、諭すように云った。
今、この場に居ることは、ひろしの導きなのだと


確かに、ひとりで受け止めるには余りに残酷すぎる
あのまま家へ帰っていたら、そこで命が尽きていたら

私は現実をすんなり受け入れていられたろうか


「突然のことではないんですよ、時期が来たんです」
「自分を責めないで」


女医先生は、ペットロスに陥りそうな危うさを私に見て取ったのだろうか
ひろしは、私が壊れそうになるのを女医先生を通して凌いでくれたらしい


酸素室から出されたひろしの目は、もう私を見てはいなかった。
瞳孔が開いて、目全体がふだんより白っぽく見えた。

命の灯が消えていくのを確かに感じる。
ひろしの身体を、顔を、頭をなでながら女医先生が云った。


「心臓はまだ少し動いてます、この瞬間に立ち会えてよかったですね」
「ひろしくんのおかげです」


ただただ、涙、そして感謝しかなかった。
病気のことも、見立て通りでいいと思った。

いつの頃からか、ウィルスに感染していた、或いはもともとキャリアだったひろしは、たまたま11歳のこのときに発症したのだと…

会計時、たぶん使うことのない「診察券」をもらった。


「お家に帰ろう、ひろし」

本当の最後の瞬間は、おそらくキャリーバッグのなか
目を開けたまま、息をしているかのように横たわるひろし




早く家に帰って思い切り抱きたかったけど、内灘からの道のりは中々に遠い
金沢港辺りまで来たとき、堪らずセカストの駐車場に車を止めて、ひろしを抱き上げて声をあげてオイオイ泣いた。

ビロードのような体毛はやっぱり最高!
身体は、まだ生きているかのように温もっていた。

ただ、持ちあげるとマペットのようにぐらぐらになる


これが「死」
もう二度とこの世界で会うことはない



1才の頃のひろし

呼  名:ひろし
生年月日:2007年4月18日
猫  種:RUSSIAN-BLUE
性  別:雄
毛  色:BLUE
目  色:GREEN
享  年:11歳


★関連ブログ 2018/5/3
『“ひろし” 鼻炎が辛い日 5/3』
http://garakutama.blogspot.jp/2018/05/blog-post.html#more

★関連ブログ 2018/5/9
『“ひろし” なぜ食べない 5/9』
★関連ブログ 2018/5/11
『“ひろし” 鼻炎の原因は貧血⁈ 5/11』
http://garakutama.blogspot.jp/2018/05/511.html

★関連ブログ 2018/5/12
『“ひろし” を抱きしめたい日 5/12』

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